グループリーダーご挨拶

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乾将行

バイオ研究グループ
グループリーダー、主席研究員
乾 将行

 世界的に脱炭素化の潮流は加速しており、各国ともグリーン分野への研究開発支援や先端技術の導入支援などを積極的に実施しています。日本政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。バイオプロセスは常温常圧下で、ものづくりが進行するため、高温高圧条件下でものづくりが行われる化学プロセスと比較して、CO2排出削減が期待できます。また、"バイオものづくり"は、化学プロセスとは異なり、一般的に細胞内で多段階の反応により合成されるので、炭素数の多い複雑な化合物生産ほど競争力が高くなります。2022年3月の「第4回新しい資本主義実現会議」において岸田内閣総理大臣は、今後、重点的に投資を行う5つの科学技術・イノベーション分野の一つとして、"バイオものづくり"をあげられました。この会議の中で「"バイオものづくり"は、地球温暖化などの社会課題の解決と経済成長の二兎を追える研究分野として推進する」と発言されています。
 一方、近年、バイオテクノロジーは、合成生物学やゲノム編集技術等が急速に進展しています。さらにバイオテクノロジーと、発展が著しいIoTやAI等の情報技術(デジタル)とが融合した"バイオ×デジタル技術"の技術革新も起こりつつあります。この"バイオ×デジタル技術"により、原料を石油からバイオマス資源や大気中のCO2に変換可能な"バイオものづくり"の社会実装が加速し、カーボンニュートラル・カーボンネガティブに大きな貢献が期待できます。
 このような背景の下、RITEバイオ研究グループでは、微生物を利用したバイオプロセスによって、非可食バイオマスからバイオ燃料やグリーン化学品を高効率で生産するバイオリファイナリーの技術開発に取り組んでいます。我々のグループでは、代表的な工業微生物であるコリネ型細菌が、嫌気条件下では増殖は抑制されるものの代謝機能は維持され、糖類を代謝し有機酸等を効率よく生成する現象を見出し、これを基に、増殖非依存型バイオプロセス「RITE Bioprocess」を開発しました。また、工業化に必須な要素技術である「非可食バイオマス由来の混合糖の完全同時利用」や「発酵阻害物質への高度耐性」等を確立しています。
 それらの技術を利用して、バイオ燃料としてはエタノール、イソブタノール、グリーンジェット燃料、バイオ水素、グリーン化学品としては乳酸、コハク酸、アラニン、バリン、トリプトファン、シキミ酸、プロトカテク酸、4-アミノ安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸等について世界最高レベルの高効率生産を報告しています。現在は、より高付加価値な香料、化粧品、医薬品、繊維、ポリマー等の原料となる芳香族化合物等の生産技術開発やCO2を直接原料とした"バイオものづくり"技術開発に注力しています。
 また、一方で、これまでに"バイオ×デジタル技術"である「スマートセル創製技術」の開発として、NEDO「スマートセル」プロジェクト、SIP戦略的イノベーション創造プログラム、NEDO「データ駆動型統合バイオ生産マネジメントシステム」プロジェクトに参画し、従来の合成法では生産が難しかった高機能化学品の生合成や生産プロセスの効率化に向けて研究開発を進めています。2022年7月には、「スマートセル創製技術」を利用した民間企業との連携開発による香料やカロテノイドの生産について、NEDO「ものづくり実証」プロジェクトに採択され、事業化に向けた研究開発を開始しています。また、NEDO「ムーンショット」プロジェクトにも参画しており、非可食バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発にも取り組んでいます。
 今後も「スマートセル創製技術」、「データ駆動型の酵素選抜・改変技術」や「RITE Bioprocess」を利用した芳香族化合物等のグリーン化学品生産やバイオ水素等のバイオ燃料生産等の研究開発、さらにはそれらの実用生産技術開発を行い、カーボンニュートラルの実現に貢献して参ります。
 引き続き、皆様方のご協力、ご支援をお願い致します。

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