グループリーダーご挨拶

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乾将行

バイオ研究グループ
グループリーダー、主席研究員
乾 将行

 生物機能を利用したバイオテクノロジーは、医療や農業、工業などの分野に幅広く貢献しています。近年、この技術を利用する産業と循環型社会を融合させた市場である「バイオエコノミー」の概念が提唱され、欧米を中心に総合的なバイオ戦略として注目を集めています。当グループでは、このバイオエコノミーの中核技術であるバイオリファイナリー技術、即ち再生可能資源(バイオマス)を原料としてバイオ燃料やグリーン化学品を製造する技術の開発を進めています。
 バイオ燃料に関しては、2017年は1.2億kL のバイオエタノールが世界で生産され、その約半分の生産を米国が占めました。バイオエタノールは、米国ではトウモロコシ、ブラジルではサトウキビを原料として生産され、ガソリンに10~25%混合されて自動車用燃料として供給されています。
 バイオディーゼルは、欧州では主に菜種、米国では大豆を原料として生産されており、2017年のバイオディーゼル生産量は0.37億kLと予測されています。
 特に航空機や大型船舶は自動車と異なり電動化が困難であるため、今後も液体燃料への依存は変わらないとみられています。航空機からのCO2削減の切り札であるバイオジェット燃料は、年々普及が進んでおり、海外では調理用廃油などを利用したバイオジェット燃料による商業飛行が継続されています。
 グリーン化学品に関しては、循環型社会の実現や持続的なモノづくりに貢献する重要な素材として期待が高まっています。バイオ素材やバイオポリマー等のグリーン化学品の生産は、化石資源からバイオマスへの原料転換やCO2の削減に有効です。欧州バイオプラスチック協会によると、2017年のバイオプラスチックの世界生産量は440万トン、2021年は611万トンと予測されています。国内でも、生分解型のポリ乳酸や、ドロップイン型のバイオポリエチレンテレフタレート(PET)の消費が増えており、今後は、モノマーの種類拡大やバイオ生産性の向上に、2016年度からプロジェクトが開始されたスマートセル技術の応用が期待されています。

 バイオ研究グループは、日本ではいち早く1990年代からバイオリファイナリー技術の開発を開始し、コア技術である「増殖非依存型バイオプロセス」を活用して、バイオエタノール、有機酸やアミノ酸の生産プロセスの開発に取り組んでまいりました。その一部は実用化開発の段階に入っています。
 本プロセスの特徴は、目的物質を効率的に生産できるように高度に代謝設計されたコリネ型細菌(スマートセル)を大量に培養し、細胞を反応槽に高密度に充填後、嫌気的な条件や、増殖に必須な因子を削除することにより細胞の分裂を停止させた状態で反応を行います。増殖を伴わないため、従来の増殖を伴う発酵法と比較して、高い収率(原料から生成物への変換効率)と、高密度細胞による反応のため高い生産速度(STY(space time yield))が達成可能です。また、増殖非依存型バイオプロセスは、非可食バイオマスを原料とするバイオリファイナリー分野において必須とされる技術特性、「C6, C5混合糖の同時利用」と「発酵阻害物質に対する耐性」の両方を達成した唯一のバイオプロセスです。
 今後大きく飛躍するためには、ターゲットとなる生産物を汎用バイオ生成物から、より難易度が高い生成物生産への転換が必要だと考えています。
 より難易度が高い生成物とは何か?我々がターゲットとしているのは、細胞毒性が強い長鎖アルコールや芳香族化合物等の生産です。長鎖アルコールは、バイオジェット燃料の原料として近年急速に注目されており、芳香族化合物は、ポリマー、医薬品、化粧品、染料等の原料として期待されています。これまでバイオプロセスでの長鎖アルコールや芳香族化合物の生産が望まれていましたが、細胞毒性が強いため、微生物の増殖や代謝系を阻害し、増殖を伴う発酵法では生産性が著しく低下するため実用化が困難でした。一方、増殖非依存型バイオプロセスは増殖を伴わないため、発酵法と比較して細胞毒性の強い物質でも生産性が高いことが強みです。さらに、増殖非依存型バイオプロセスに用いるコリネ型細菌は、大腸菌等の工業微生物や溶媒耐性菌等よりも、長鎖アルコールや芳香族化合物等、我々が調べたいずれの物質に対しても耐性が強く、生産宿主として優れていることが分かっています。

 具体的な開発例として、我々RITEと住友ベークライト株式会社は、世界初となるグリーンフェノールの生産及びグリーンフェノール樹脂製造に関わる基盤技術を共同開発してまいりました。原料となる混合糖からのグリーンフェノール直接生成では、反応経路が多段階に及ぶため多くの酵素がフェノールによる強い阻害を受けます。そこで、フェノールの毒性を回避可能な「2段工程法」によるグリーンフェノール生産技術を確立したことで、従来の発酵法では経済的に不可能とされてきた、バイオマス由来の混合糖からのグリーンフェノール製造への展開に目途をつけることができました。これらの成果の実用化を目指して、2014年5月27日、「グリーンフェノール開発株式会社」(GPD)を設立しました。またこれらの成果「植物由来フェノール製造技術の開発」に対して、2016年6月2日、GPD・RITE・住友ベークライト株式会社は、公益社団法人新化学技術推進協会(JACI)グリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議より、「第15回グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)賞奨励賞」を受賞しました。さらに本技術を基盤として、様々な芳香族化合物の生産に適応・拡大し、早期実用化を図るため、GPDの商号を、2018年4月1日付で「グリーンケミカルズ株式会社」(GCC)に変更しました。

 今後、グリーン芳香族化合物にとどまらず、これまで実用化が難しかった細胞毒性が強いバイオ燃料・化学品の生産を可能とする「第2世代の増殖非依存型バイオプロセス」を確立し、原料を石油から非可食バイオマスに転換することで、CO2の排出抑制及び化学製品のグリーン化の促進に寄与することを目指してまいります。
 引き続き、皆様方のご協力、ご支援をお願い致します。

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