研究内容

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研究内容

CO2貯留研究グループは、二酸化炭素地中貯留技術研究組合の枠組みの下で、「大規模CO2圧入・貯留の安全管理技術の開発」、「大規模貯留層の有効圧入・利用技術」、「CCS普及条件の整備、基準の整備」を柱に、安全なCCS実施のためのCO2地中貯留技術の研究開発を進めています。主な研究課題の実施内容及び研究成果を以下に紹介します。

CO2圧入サイトの貯留性能評価

1 CO2地中貯留のための地質モデル構築手法開発

貯留層地質モデルの構築はCO2地中貯留にとって基本的かつ重要な課題です。CO2地中貯留の各ステージにおいて、必要とされる地質モデルが異なっています。油ガス田開発に比べて利用できる坑井データが少なく、コア試料、物理検層や弾性波探査データは空間的分解能やカバーレージ(カバーする範囲)が異なっており、それらを統合する手法が必要となります。そこで2017年度には、貯留サイトの特性評価時の地質モデル構築に関して検討を行いました。数少ない坑井から得た検層等のデータより、できるだけ多くの情報を得ようとして堆積学的な知見から各データを統合する手法について検討しました。その結果を下図に示します。

検層データの解析結果とCO2圧入性の比較

FMI (Formation Micro-Imager)検層では192個の電極を持ち、細密な比抵抗を測定しています。このイメージデータのヒストグラムは、岩種や堆積環境に関する情報が比抵抗の次元で表現されています。一方、NMR (Nuclear Magnetic Resonance)検層は励起スピン緩和時間分布が孔隙径分布の情報を持つため、貯留層性能につながる情報が得られると考えられます。
本研究では、長岡サイトのFMIとNMR検層データを対象に、貯留層特性解析を行いました。FMIデータからは、平均的な比抵抗値と淘汰度に関する情報が得られ、NMR検層データ解析では、貯留層での孔隙径分布の特徴を調べるための緩和時間分布の因子解析を行い、8つのクラスターに分けることができました。これらの解析結果を基に、地質性状に関する解釈を行ったところ、図の緑・黄・赤枠部分はそれぞれ地質性状(孔隙率、浸透率など)が良・中程度・不良であることを示しています。このような地層の不均質性は、図右の、圧入性(injectivity)の高・中・低の違いとよく一致しました。このように、検層データの分解能やカバレージに注意しながら地層解析を行なえば、貯留層評価に有用な情報が得られることが分かりました。

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2 地震観測に基づくCO2圧入管理システム(ATLS)の開発

CO2圧入によって、地中の圧力が増加し、地震が誘発されることが懸念されるため、CO2圧入サイトでは地震観測など様々なモニタリングが行われています。CO2貯留研究グループではこれらの観測結果に基づいたCO2圧入管理システム(ATLS: Advanced Traffic Light System)を開発しています。高温岩体地熱発電(EGS)では、主に微小地震観測結果に基づき、緑・黄・赤の交通信号器の色で表現する、トラフィックライトシステム(TLS)が開発されています。本研究ではCO2圧入サイトの地震観測を含むすべての観測データや圧入状況も勘案した、より発展的な機能を有するATLシステムを開発しています。ATLSは、いち早く異常を検出し、CO2圧入制御にフィードバックする仕様になっています。事業者は、ATLSからの情報を基に、CO2圧入量を制御するほかに異常事象に対する必要な対策を講じることが可能となります。下図はATLSの概要を示しており、赤枠部分が開発済みの部分であり、現在、他の部分についてもプログラム開発を進めています。

ATLSの概要図

ATLSに地震観測結果を反映させるには、微小振動(極微小地震)までを取りこぼさずに確実に検出すること、ノイズを誤って抽出しないことが必要です。微小振動をより確実に検出するため、従来から使われているSTA/LTA法(Short Term Average/Long Term Average method)に替えてSDAR(Sequentially Discounting AR model learning:忘却型学習アルゴリズム)をとり入れています。この2つの判定法を、OBC (Ocean Bottom Cable)の観測データに適用し、有効性を検証しました。下図はOBC周辺100km以内で1年間のM1以下の自然地震発生地点と、手法ごとの判定結果を示めしています。これより、SDARのパラメータを適切に設定することにより、STA/LTAより確実に地震イベントを検出できました。今後はOBC以外、例えば坑井内地震計などの観測データへの適用性を検証する予定です。

自然地震(<M1)の発生位置と測定結果比較

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3 CO2圧入時の地層安定性モニタリング技術開発

CO2圧入サイトの地層の力学的安定性について、貯留層や遮蔽層だけでなく、貯留層から地表までのすべての地層の変形を監視することが望まれます。地表から地下深部まで連続的に計測できる手法として、DTS (Distributed Temperature Sensing:分布式温度センシング)が開発され、石油・天然ガス開発分野において実用化されています。同様な光ファイバーセンシング技術として、CO2貯留研究グループでは、地層変形(ひずみ)を深度方向に連続的に測定する技術開発を行っています。
2017年度には、光ファイバー設置済み坑井(深度300m)を活用した地層変形観測実験を実施しました。この現場実験において20cm間隔で坑井の深度方向の地層変形を測定することにより、砂泥互層の変形特性や力学的解析モデル構築に関する重要な知見を得ることができました。
この坑井では、長期観測中にサイト周辺の地下水汲み上げに起因する地層変形(ひずみ)が複数回計測されたことから、サイト周辺の複数の坑井を利用して揚水し、地下水賦存量の水理特性を調べる実験を行いました(下図)。光ファイバー設置坑から280m離れた坑井からの揚水試験では、揚水後数時間以内に帯水層(深度200-230m)に圧縮が生じました。また、同方向に940m離れた坑井での揚水試験では、最初の試験と異なる時間差とひずみが観測されました。さらに、2回の揚水試験の比較では、最大ひずみの深度が異なっていること、および上位層において伸びひずみが生じたことも注目されます。このような観測結果は、水理地質学と岩盤力学の連成解析を可能とする世界初のフィールドデータです。

光ファイバーによって測定された揚水試験時の地層変形の経時変化

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4 サイドスキャンソナーを用いたCO2気泡の検知技術の開発

海底下地層に貯留したCO2が海中に漏出するおそれは極めて小さいと考えられています。海洋汚染防止法では、万が一に備えて、漏出が起きていないことを確認するための漏出監視が義務付けられています。浅海域の海底の温度、圧力条件では漏出CO2が気体になるため、漏出が起きると、海底から気泡のCO2が出てくることになります。したがって、海底から出ている気泡が無いことを確認することが漏出監視の一つの手段となり得ます。
海中での気泡検知には、音響機器(音波)が使われており、メタンなどの気泡の観測事例があります。音響機器にはいくつか種類がありますが、CO2貯留研究グループでは、広範囲の気泡探査が可能なサイドスキャンソナー(SSS; side-scan sonar)を用いたCO2気泡の検知手法の開発に取り組んでいます。SSSは機器の左右両方向(進行方向に直交する面)に音波を発振し、反射波を受信することで、海中の物体や海底の凹凸などのイメージ画像を得る機器です。過年度の研究開発において、SSSを海中に沈め船で曳航することによって、海中のCO2気泡が検知できることが明らかになりました。
一方で、海水に溶けにくい空気の気泡に比べると、海水に溶けやすいCO2気泡は、SSSでの検知が難しく、空気やメタンなどの気泡検知で得られた知見をそのままCO2の気泡検知に適用することはできないこともわかりました。したがって、SSSを実際に漏出監視に用いるためには、SSSのCO2気泡検知能力や運用手法を明らかにする必要があります。気泡検知能力とは、SSSで検知可能なCO2気泡の最小フラックス(漏出率)はどの程度なのか、SSSからCO2気泡までどの程度離れていても検知可能なのかなどであり、運用手法とは、SSSを曳航する船の速さはどの程度がよいのか、SSSをどの程度の深さまで沈めるのがよいのかなどを指しています。
2017年度には、現在CO2の海底下貯留の実証試験が行われている苫小牧の沖合いと同程度の水深(約30m)の海域で、海底からCO2気泡を放出し、それをSSSで観測する実証実験を行いました。様々な気泡放出条件(放出率や気泡のサイズ)と観測条件(SSSを沈める深さ、曳航する船の速さ、気泡放出点からの距離)で実測した結果、船速2.5~5.5ノットで放出(漏出)率500~5,000ml/min(水深30mであれば2~20トン/年程度に相当;商業規模貯留の圧入レートの10万分の1以下)のCO2気泡をSSSで検知できることが明らかになりました(下図)。

サイドスキャンソナーによる気泡検知の原理および検出されたCO2気泡画像

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5 マイクロバブル技術を活用したCO2溶解促進技術の開発

CO2貯留研究グループは東京ガス株式会社との共同研究により、特殊フィルターを利用してCO2をマイクロバブル(微細気泡)にして地中貯留する技術開発を行ってきました。
下図は長さが30cmの多孔質砂岩試料に圧入されたマイクロバブルCO2の挙動をX-CT装置によって可視化した結果です。暖色系カラーが孔隙内のCO2分布を示しており、従来法に比べて、マイクロバブルCO2圧入法の方がCO2飽和率が高く貯留性能が優れていることが分かります。
マイクロバブル技術の実用化に向けて、現在石油資源開発株式会社と協力して、実際のCO2圧入現場に利用する坑内ツールの開発に取り組んでいます。2017年度には試作した坑内ツールを深さ250mの坑井に設置し、N2とCO2の圧入テストを行ない、浅部地層におけるマイクロバブルCO2の発生状況を確認できました。今後は、大深度坑井を利用して、高温、高圧の条件下での適用を目指して圧入ツールを改良していくとともに、CO2貯留メカニズムを検討しながら、マイクロバブル技術の実用化を進めていく予定です。

異なる圧入法によって生じた砂岩試料中のCO2分布(X線CT画像)の差異

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