研究内容

  1. バイオ研究グループ HOME>
  2. グリーン化学品生産>
  3. 芳香族化合物

グリーン化学品生産

芳香族化合物

フェノール

2016年6月2日、公益財団法人地球環境産業技術研究機構・グリーンフェノール開発株式会社(現 グリーンケミカルズ株式会社)・住友ベークライト株式会社が、本研究開発「植物由来フェノール製造技術の開発」に対して、公益社団法人新化学技術推進協会(JACI)グリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議より、「第15回グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)賞奨励賞」を受賞しました。

化石資源への依存度の低下、ならびにエネルギーを大量消費する高温・高圧の化学工業プロセスから、常温・常圧で行える省エネルギープロセスへの置換はグリーン・イノベーションのための先端技術革新の潮流となっています。そのため、グリーン化学品分野において、研究開発対象は拡大の一途をたどっています。

フェノール樹脂は、誕生から100年以上の歴史を有し、その優れた耐熱性、機械特性、電気絶縁性、耐燃性のために自動車、回路基板、木材加工接着材など広範な用途に適用されています。フェノール樹脂の原料であるフェノールは芳香族化合物の一種で、原油依存の方法により生産されています。フェノールは強い細胞毒性を示すことから、バイオプロセスによる生産は困難とされてきました。

フェノールの用途の図


<フェノールの用途>

現行フェノール製造法とグリーンフェノール生産法の図

<現行フェノール製造法とグリーンフェノール生産法>

当研究グループでは、これまでに代謝工学的改変手法によりコリネ型細菌を改良し、非可食バイオマス由来のC6糖、C5糖の同時利用の問題を解決してきました。また、グリーンフェノール生産のために、フェノールの細胞毒性が軽減できる2段階工程法を構築してきました(糖→4HBA、4HBA→フェノール)。これらの方法に基づき、住友ベークライト株式会社と共同で設立したグリーンケミカルズ株式会社(GCC)において、グリーンフェノールの早期の工業化を目指しています。 https://greenchemicals.co.jp/products/phenol/

グリーンフェノール生産プロセス


<グリーンフェノール生産プロセス>

アニリン

アニリンは、芳香族アミンの一つであり、ポリウレタンや接着剤、塗料、合成皮革などに汎用されています。なかでもポリウレタンは全世界で年間2,000万トン以上が生産されており、アニリンはポリウレタン原料の一つであるMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)の製造に必須の成分です。

アニリンは石油由来のベンゼンをニトロ化し、その後還元するなどして製造されています。こうした化学的なアニリン製造は高温条件を必要とし、また、強酸の使用によって多量の廃液が生じるため環境負荷が大きいといえます。

これに対して、RITE Bioprocessを利用したアニリン生産(バイオ合成法)は、常温・常圧の条件で行われ、化学合成のような有害な原料を必要とせず、強酸性廃液も発生せず、環境にやさしいのです。また、RITE Bioprocessは再生可能な非可食バイオマスを原料に用いるため、カーボンニュートラルの概念からCO2の排出削減も可能であり、地球温暖化対策に有効なバイオ生産技術といえます。RITE Bioprocessに用いるコリネ型細菌は、大腸菌などと比較してアニリンに対する耐性が元々高い特徴を有します。

こうした多くの利点を生かしたRITE Bioprocessは、アニリン生成能力が強化されたコリネ型細菌を用いることで、非可食バイオマス由来の混合糖(C6, C5糖の混合物など)からアニリンを生成可能にします。

化学合成法によるアニリンの生成過程

<化学合成法によるアニリンの生成過程>

アニリンをはじめとする芳香族化合物が糖から生合成されるまでには、微生物細胞の中で多段階の連続した代謝経路(酵素反応)を必要とします。また、芳香族化合物の多くは細胞毒性が高い理由から、一般にバイオ合成しにくいという問題があります。しかし、当研究グループが用いるコリネ型細菌は、アミノ酸の工業生産に用いられている有用で安全性に優れた工業用微生物であり、多くの発酵阻害物質に元来耐性を示し、また溶菌しにくいという他の汎用微生物にはない特徴を有しています。そのため様々な芳香族化合物を生産するのに適した微生物であると考えています。コリネ型細菌を代謝改変し、RITE独自に開発した増殖非依存バイオプロセス技術を適用することで、従来技術では困難とされてきた目的物質の高生産が実現可能となります。

微生物が非可食バイオマス由来の混合糖液(C5,C6糖の混合物など)を利用する場合には、利用しやすいC6糖をC5糖よりも優先的に利用します。多くの微生物は増殖に伴って物質を生産するため、すべての糖を利用するのに時間がかかり、生産性は低下します。

しかし、代謝改変を施したコリネ型細菌を用いることで、増殖非依存条件下で混合糖に含まれるC6糖とC5糖を同時に利用可能となります。さらに糖から目的物質に至る多段階の人工代謝経路を設計し、代謝経路全体を強化します。この菌株は連続酵素反応装置のように用いることができ、糖原料からアニリンなどの目的物質を高収率に高生産可能となります。化学合成において様々なバッチ反応を連続して行う、いわば「精密フロー合成」を微生物内で実現できるのです。

非可食バイオマスを原料としたアニリンのバイオ生産と用途

<非可食バイオマスを原料としたアニリンのバイオ生産と用途>

4-ヒドロキシ安息香酸(4-HBA)

4-ヒドロキシ安息香酸(4-HBA)は電気・電子部品等に用いられる液晶ポリマーや防腐剤として用いられるパラベンの原料となる芳香族化合物で、典型的な石油化学プロセスにより製造されています。

また、4-HBAはグリーンフェノール生産の代謝経路における前駆体であることから、我々はバイオプロセスによるフェノール生産技術の開発の一環として4-HBA高生産技術の開発を進めてきました。

これまでに高生産を達成し、現在、4-HBAは住友ベークライト株式会社と共同で設立したグリーンケミカルズ株式会社(GCC)の主要な開発品の1つとなっています。https://greenchemicals.co.jp/products/4-hba/



4-アミノ安息香酸(4-ABA)

従来、4-ABAは多段階の化学合成反応を経て製造されてきました。代表的な製造法は、石油由来の原料からパラニトロ安息香酸を得、還元により4-ABAを合成する経路です。これらの化学合成反応では強酸や金属酸化剤が求められるため、環境負荷の高い製造法でした。そのため、脱化石資源依存および二酸化炭素排出量削減の観点から、環境調和型プロセスであるバイオリファイナリー技術を用いた4-ABA生産法が強く望まれています。

一方で、多くの微生物が、葉酸の前駆体として4-ABAの生産経路を有しています。当研究グループでは育種により4-ABAを培養液中に蓄積するコリネ型細菌の開発に成功しました。その生産性は世界最高水準であり、培養液から4-ABAを精製することにも成功しています。本技術により、アミノ基を芳香環上に持つ化学品の実用化レベルでの発酵生産が可能であることを示すことができました。



プロトカテク酸(PCA)

プロトカテク酸(3,4-ジヒドロキシ安息香酸、PCA)は薬用植物などに多く含まれる天然のポリフェノール抗酸化物質であり、抗癌、抗炎症、抗老化、抗動脈硬化、抗菌、抗ウイルスといった人の健康に役立つ様々な薬理効果を有することが知られ、医薬品原料や機能性栄養素材として有望です。PCAはまた、バニリン(香料)、カテコール、ムコン酸(バイオポリマー原料)といった有用化学品をバイオ/化学変換によって生産するための出発原料としても利用可能である他、PCA自身も高機能ポリマーの原料モノマーとして有望です。PCAは石油原料からの化学合成や植物からの抽出によっても得ることができますが、石油依存や高い環境負荷、低収量で高コストといった問題が存在します。

バイオ変換によるPCA生産技術と従来法


<バイオ変換によるPCA生産技術と従来法>

当研究グループでは、PCAの毒性に対して高い耐性を保持するコリネ型細菌の内在性のPCA生合成経路の強化をするとともに、人工のPCA合成ルートを新たに導入し、両経路を同時利用させることにより、世界最高のPCA発酵生産能力を有した菌株の開発に成功しました。本菌を用いることで、再生可能な非可食の植物原料からPCAを大量生産可能な環境調和型のバイオプロセス技術を確立しています。バイオPCAの様々な用途の実用化を目指し、グリーンケミカルズ株式会社(GCC)における開発品目の一つとして、パイロットスケールでの生産実証を含むさらなる技術改良に取り組んでいます。https://greenchemicals.co.jp/products/pa/

PCA高生産株の代謝デザイン PCAの生物変換によって生産可能な有用化合物


       <PCA高生産株の代謝デザイン>              <PCAの生物変換によって生産可能な有用化合物>



シキミ酸

シキミ酸は日本においてシキミ(樒)の果実から発見された環状ヒドロキシ酸であり、植物や微生物において生産される芳香族化合物全般の共通の前駆体としての重要な化合物であり、芳香族化合物合成の共通経路として知られる「シキミ酸経路」の名称の由来となっています。

一方で、シキミ酸は分子内に多くの光学活性点を含むことから様々な生理活性物質の合成原料として有用であり、実際この特性から、シキミ酸はインフルエンザ治療薬であるタミフルを製造する際の出発原料として利用されています。また、シキミ酸自体も抗血栓や抗炎症作用、美白や育毛効果、殺菌作用を含む様々な薬理効果を有することが知られており、医薬・化粧品原料や機能性食品素材としての幅広い用途での利用が期待されます。我々はシキミ酸を植物原料から高効率生産させるバイオプロセスを確立しており、様々な用途への展開を目指しています。

従来、シキミ酸はそれが多く含まれているスパイスの1種である八角(スターアニス)として知られるトウシキミの果実からの抽出により生産されていましたが、収量が低く、供給も不安定という問題がありました。

当研究グループでは、代謝工学的手法を用いてコリネ型細菌の内在性代謝経路を強化・改変することにより、世界最高のシキミ酸生産能力を誇る菌の開発に成功し、再生可能な非可食の植物原料からシキミ酸を大量生産可能な環境調和型のバイオプロセス技術を確立しました。シキミ酸の様々な用途の実用化を目指し、グリーンケミカルズ株式会社(GCC)における開発品目の一つとして、パイロットスケールでの生産実証を含むさらなる技術改良に取り組んでいます。https://greenchemicals.co.jp/products/sa/

シキミ酸高生産株の代謝デザイン


<シキミ酸高生産株の代謝デザイン>

Pagetop