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研究内容(プロジェクト)

地球温暖化対策技術の分析・評価に関する国際連携事業(R4年度~)(通称:ALPS Ⅳ)

ALPSプロジェクト(ALternative Pathways toward Sustainable development and climate stabilization)

実施内容

本事業において、2022年度では、次の項目(1)~(5)について実施しました。(1)気候変動に関連した各種不確実性を指摘した上で、本事業で実施した定量的な分析も踏まえながら、気候変動リスクマネージメント戦略のあり方について議論を行い、とりまとめました。また、IPCCの最新の評価報告書で整理された内容を含め、気候変動対策と他のSDG目標等とのシナジー・トレードオフについて調査しました。更に、気候変動対策におけるイノベーションの可能性についてまとめ、気候変動リスクマネージメントにおけるイノベーションの役割について論じました。(2)グリーン成長の限界を正しく認識しつつ、その機会を見出すために、各種調査、分析を行いました。また、日本経済の長期エネルギー生産性変化における構造要因の分析、日本産業のエネルギー生産性変化の測定、電力自由化の下での温暖化対策の動向等についての調査、サステイナブルファイナンスの動向と既往のモデル分析の調査・検討等を行いました。(3)中期的な緩和策の分析として、パリ協定NDCs(Nationally Determined Contributions)の排出削減目標(2030年頃)に関する分析・評価を行いました。各種制約に伴うNDCs達成の排出削減費用の上昇等について分析するとともに、国際競争力への影響についても評価を行いました。また、国境調整税に関する国際的な議論の動向を整理するとともに、モデル分析による試算も行いました。(4)長期の緩和シナリオ分析を実施しました。カーボンニュートラル実現のための各種技術の開発動向や国際的な最新の分析・評価について整理しました。また、温暖化対策モデルにおいて、エネルギー供給側および需要側双方について、2050年カーボンニュートラル実現の様々なシナリオを想定した分析を行いました。(5)最新の海外の気候変動に関する政策動向の調査結果を整理するとともに、国際モデル比較プロジェクトの各種動向、国際エネルギー機関IEA等のシナリオについても調査しました。以下に項目(1)~(5)のそれぞれのポイントを記載します。

(1) 気候変動リスクマネージメント

気候変動リスクマネージメントのあり方について検討を行いました。IPCC WG1の第6次評価報告書では、地球温暖化が人間の影響で起きていることは「疑う余地がない」と評価しました。気温安定化のためには、その時点においてCO2排出をほぼゼロにする必要もあります。しかし一方で、気候変動の程度および影響被害の程度には大きな不確実性が存在します。緩和費用面に関してもパリ協定NDCsでも見られる限界削減費用の各国間での幅の大きさが指摘できます。また、一国内においても原子力等の社会的な利用制約や、エネルギー安全保障やその他政策との調和の必要性、また政治システム上の制約も考えられ、それらを踏まえると費用最小化時の緩和費用と比べかなり大きい費用が推計されます。そのような中、様々なリスク要因を踏まえた上で、気候変動対策に関するより良い意思決定が求められます。また総合的に気候変動リスクを減じるためには、気候変動への適応も重要な対策と考えられます。本研究では、IPCC第6次評価報告書で整理された、気候変動対策とSDGsとのシナジー・トレードオフ等についてもまとめました。各種対策は、SDGsに対してシナジーも多く存在する一方、トレードオフも存在しており、トレードオフの影響を小さくしながら、対策を進める必要があります。また、気候変動影響・適応策の経済影響・経済効果やイノベーションとそれを誘発し得る政策についても言及しつつ、気候変動リスクマネージメントのあり方について整理を行いました。

(2) グリーン成長の限界と可能性

グリーン成長の限界と可能性について、できる限り、データ、定量的な分析に基づきながら検討を行いました。日本政府は、「経済と環境の好循環」を掲げています。しかしながら、その道筋は、現時点で明確にあるわけではなく、狭いパスとも考えられます。

経済とCO2排出のデカップリングの状況などについて、最新の定量的なデータ収集と分析を行い、その要因も含めて検討を行いました。そして、更なる深堀として、日本経済の長期エネルギー生産性変化における構造要因の分析を行うと共に、日本産業のエネルギー生産性変化の測定も実施しました。更に、日本の産業界が取り組んでいるカーボンニュートラル行動計画の実績について、グリーン成長の視点を含め、排出削減努力についての一次的な試算も行いました。

その他、欧州や日本などにおける再生可能エネルギー導入状況とその課題について調査を行いました。また、電力自由化の下で温暖化対策を進めるにあたっての課題、そしてそれへの対応として進められている電力政策の動向等についてまとめました。更には、グリーンボンド、サステイナブルリンクローン等、サステイナブルファイナンスの動向とこれまでのモデル分析例についてその内容と課題について整理を行いました。気候変動政策に伴う費用負担の格差拡大の課題についても調査・検討を行いました。

(3) 中期の温暖化緩和策シナリオの分析

パリ協定NDCsの排出削減目標(2030年頃)に関する分析・評価を行いました。パリ協定では、プレッジ・アンド・レビューの仕組みとなっており、NDCsの国際的なレビューが重要となります。本研究では最新の動向をふまえ、排出削減費用を含む、複数の指標を採用し、各国NDCsの排出削減努力の国際比較を実施しました。また、日本の新たな2030年の排出削減目標-46%について、その経済影響についても分析・評価を行いました。日本の排出削減目標実現には、大きな排出削減費用と経済影響が推計されました。なお、国際的なNDCs評価の文献についても整理を行いました。

更には、欧州では炭素国境調整税導入の具体的な検討が進められてきています。そこで、関連動向と既往モデル分析事例の調査を行うとともに、世界エネルギー経済評価モデルを拡張して、2030年のNDCsの下での炭素国境調整税導入の影響に関する試算を行いました。また、海外のモデルでも分析を行い、比較・評価を行いました。炭素国境調整税は、炭素リーケージに一定の効果は有すると推計されるものの、効果は限定的とも見られ、原則的にはCO2限界削減費用の差異が国間で大きくなりすぎないよう、排出削減目標の調整が重要と見られます。

(4) 長期期の温暖化緩和策シナリオの分析

長期の温暖化対策・政策の総合的な分析を行いました。先述のように、日本政府を含む、世界の多くの国が、2050年にカーボンニュートラルを目標に掲げるようになりました。このような状況を踏まえ、世界エネルギー・温暖化対策評価モデルDNE21+において、エネルギー供給側および需要側双方のエネルギーシステムの分析を行いました。

2021年度のALPSⅢ事業において、2050年カーボンニュートラルの分析を行いましたが、2022年度は、カーボンニュートラル実現までのトランジションを含めて、部門別のロードマップとして、DNE21+モデルによるシナリオ分析を行いました。

なお、エネルギー供給サイドについては、カーボンニュートラル実現において、より一層重要性が増すと考えられる、水素や水素系燃料である、アンモニア、e-methane(合成メタン)、e-fuels(合成燃料)の技術調査、各種の経済性評価に関する調査を行いました。また、大気中からの直接CO2回収・貯留(DACCS)などの二酸化炭素除去技術(CDR)についても技術調査、各種の経済性評価に関する調査を行いました。これらの調査は、DNE21+モデルによる2050年カーボンニュートラル分析においても反映した他、その可能性についての感度解析も実施しました。

エネルギー需要サイドについては、デジタルトランスフォーメーション(DX)を中心に誘発され得るサーキュラーエコノミー、シェアリングエコノミー等、低エネルギー需要実現の可能性について、調査、分析を実施しました。3Dプリンティングの技術動向や、DXによる貨物部門の技術・社会変化、食料廃棄低減に伴う土地利用変化とそれによる非CO2温室効果ガス排出量低減等について調査しました。また、消費行動を包括的に評価するため、COVID-19の影響を含む生活行動の変化について調査しました。そして、DXを中心とした技術変化や社会変化が、エネルギー需要にどのような変化をもたらし得るのかについて、定量的な推計を行い、DNE21+モデルを用いてエネルギー需給双方を整合的に分析しました。これらによって、リバウンド効果を含む、行動変化を総合的に捉えて、将来のエネルギー需要の見通しを得る分析手法の今後の発展に資するものと考えられます。

また、非CO2温室効果ガス排出および削減費用の推計モデルの更新を行い、その試算も行いました。

(5)国際的な温暖化シナリオ分析の動向

カーボンニュートラルに関する国際的なシナリオ分析の動向を調査するとともに、国際モデル比較プロジェクトの動向を整理しました。まず、IPCC WG3第6次評価報告書にまとめられた、排出シナリオ、および、排出削減費用とポテンシャルについて整理を行いました。また、国際エネルギー機関(IEA)が2022年10月に発表した世界エネルギー展望WEO2022についても解説を行いました。本研究では、これらシナリオについても概要をとりまとめるとともに、DNE21+によるシナリオ(項目(3)、(4)で実施)との比較評価も行いました。国際モデルプロジェクトとしては、欧州委員会が研究資金を提供しIIASAが主宰するパリ協定目標を技術的、社会的、政治的に達成可能な排出削減経路を分析・評価するENGAGE (Exploring National and Global Actions to reduce Greenhouse gas Emissions) プロジェクトの動向について調査しました。

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