プロジェクト

膜反応器を用いたメタン直接分解によるCO₂フリー水素製造技術

事業名称: 水素利用等先導研究開発事業/炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術調査/膜反応器を用いたメタン直接分解によるCO₂フリー水素製造技術
委託元: NEDO
事業期間: 2019年4月1日~2021年2月28日

事業内容

 水素社会の構築のためには、水素を低コストで且つ大量に製造する方法が求められます。本事業では、シェールガス革命以降、長期に安定して供給が可能であるメタンに着目し、これを熱分解することで水素と固体のカーボンを製造し、副生カーボンを販売することで水素の製造コストを低減する技術検討を実施しました。
 メタン直接分解は水素生成によりCO2を排出しない反応ですが、高い転化率を得るためには反応温度を高温にする必要があり、それに伴いCO2が多く発生します。そこで、この反応系に膜反応器を適用し、反応系外に水素を引き抜くことで、反応を水素生成側に促進させ、より低温側で高い転化率を得ることにより、高効率、省エネルギーな水素製造を可能とします。水素製造に際してCO2を排出しないメリットがあり、脱炭素社会に資する技術開発です。

 
 本事業では
(1)メタン分解に必要な反応温度500℃以上の耐熱性を有する水素選択透過膜の開発
(2)メンブレンリアクター(MR:Membrane reactor)においてメタンを効率的に分解する触媒の開発
(3)水素選択透過膜膜と触媒から構成したメンブレンリアクター(図1)の開発とその有効性の実証
を開発項目としました。

 

 図1 メタン直接分解メンブレンリアクター構成

 

(1)水素選択透過膜の開発
 本事業ではメタン直接分解反応を水素生成側に促進できるよう、精密に細孔制御されたシリカ膜およびパラジウム(Pd)合金膜などの水素選択透過膜を開発しました。その結果、両透過膜共に500℃においてプロジェクトの最終目標である水素透過率5 x 10⁻⁷ mol m⁻² s⁻¹ Pa⁻¹、H₂選択透過性3,000以上の透過分離性能を有するとともに、高い耐熱性を有する水素選択透過膜膜の開発に成功しました。

 
(2)触媒の開発
 600℃における活性が比較的高いNi/Fe/Al₂O₃触媒を見出しました。一方で、活性点にカーボンが析出することで失活することが想定されるため、メタンに微量水蒸気、あるいはCO2を共存させることにより、触媒寿命が向上する可能性を見出しました。

 
(3)メンブレンリアクターの開発とその有効性の実証
 プロセス計算によりメタン直接分解用メンブレンリアクターの水素製造効率およびCO2排出量の検討を行った結果、図2に示す様に反応温度500~600℃において、従来の触媒充填型反応器(PBR;Packed bed reactor)と比較して高い水素製造効率および低いCO2排出量となることを明らかにしました。一般的な水素製造方法であるメタン水蒸気改質反応によるCO2排出量と比較すると、水蒸気改質反応が0.95 kg-CO2/Nm³-H₂に対し、メンブレンリアクターによるメタン直接分解では0.2 kg-CO2/Nm³-H₂であり、約1/5に排出量を抑制できることがわかります。今回の計算では未反応メタンと水素を燃焼させることにより反応熱を賄っていますが、水素のみを燃焼させることでCO2排出を限りなく"ゼロ"に近づけることも可能になると期待できます。

  

   図2 メンブレンリアクター適用による効果の試算結果

      a) 水素製造効率, b) CO2排出量

 

 開発したシリカ膜およびPd膜を用いたメタン直接分解試験の結果を図3に示します。図中の点線は触媒を充填した反応器、実線はメンブレンリアクターによって理論的に得られる最大のメタン転化率を示しています。この結果より、反応温度600℃、反応圧力0.4 MPaにおいてPd膜の場合で約80%、シリカ膜の場合で約70%の転化率が得られており、触媒充填型反応器(約20%)よりも高い転化率が得られることを実証しました。

 さらに、回収した水素純度はシリカ膜の場合で約90%、Pd膜の場合で約95%と比較的高い純度の水素を反応場から直接分離回収することが可能であることが明らかとなりました。

 


        図3 メンブレンリアクターの適用によるメタン転化率の向上効果 

 

 反応によって得られたカーボンのTEM像を図4に示します。触媒金属を中心にグラフェンシートが積層した態様を示しています。メンブレンリアクターにより得られたカーボンは触媒のみの場合と比較してD/Gバンド比が高く、比較的に欠陥の少ないものが生成していることがラマン分光から判りました。市販されているMWCNT(Multi-walled carbon nanotube)と比較しても欠陥の少ないカーボンです。

 一方で、Ni/Fe/Al₂O₃触媒を用いたメンブレンリアクターにより得られたカーボンは触媒金属を内包したファイバー状ですがアスペクト比が低く、より付加価値の高いカーボン(例えばMWCNT)に近づけるためにメタロセン触媒を用いた検討も行いました。その結果、中空でグラフェンシートが積層したMWCNT様の繊維状カーボンの生成に成功しました。

 

    図4.カーボン生成物のTEM画像

  

 以上の検討を通じて、RITEではメンブレンリアクターを用いることでCO2フリーかつ低コスト水素製造が可能であることをラボスケールにて実証しました。

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