CCS安全性評価への取り組み

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CCS安全性評価への取り組み

RITEは経済産業省の委託事業により、CCSの安全性・信頼性の構築に必要な基盤技術として、帯水層貯留におけるCO2圧入サイトの貯留性能評価、貯留層内のCO2挙動解析および貯留層外部へのCO2移行(漏出)解析に係る技術開発を進めています。また、これらの研究成果および国内外の知見をもとに、CCS実施事業者のための手引書となるCCS技術事例集の作成を行っています。

CO2地中貯留の技術課題に対するRITEの取り組み

概念イメージ

CO2圧入サイトの貯留性能評価

貯留層外部へのCO2移行解析

貯留層内のCO2挙動解析

CO2技術事例集作成

技術課題相関図

相関図

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CO2圧入サイトの貯留性能評価

CO2地中貯留では、地下深部の塩水性帯水層(貯留層)に超臨界状態のCO2を圧入します。適切な場所に適切な量のCO2を適切なレートで圧入し、長期にわたり安全にCO2を貯留するため、サイト選定などのCCS事業計画の初期段階から、CO2を圧入する貯留層の地質特性などを把握し、貯留性能評価をすることが必要となります。

CO2が長期にわたり安定して貯留できることを確認するため、貯留層に圧入したCO2の挙動予測シミュレーションを行います。圧入したCO2は、貯留層内の岩石の孔隙に地層水を押しのけながら入っていきます。その入り方は、岩石の孔隙の割合(孔隙率)、流体の流れやすさ(浸透率)、CO2と水の割合の違いによる流れやすさ(相対浸透率)などによって変化します。それらの各パラメータを定め、数値シミュレーションによって、貯留層内でのCO2の広がり方や貯留状態を予測します。地質モデルは、孔隙率など各パラメータの空間的分布を数値化したものです。シミュレーションによって圧入したCO2の正確な挙動予測を行うためには、高精度な地質モデルが求められます。

地質モデルの作成は、石油・天然ガス開発分野で実績があります。しかし、石油・天然ガス分野では、多くの坑井データなどを活用して地質モデルが作成されているのに対し、CO2地中貯留の分野では、コストとCO2漏出の懸念から、貯留層に達する試掘調査に厳しい制約があるため、地層のサンプルや物理検層で得られる深度方向の地質情報が少なく、限られた地質情報を基に地質モデルを作成します。

RITEは、2003年7月から2005年1月にかけて、長岡CO2圧入実証試験サイト(新潟県長岡市岩野原基地:国際石油開発帝石株式会社)において、計10,400トンのCO2を地下1,100mの塩水性帯水層(貯留層)に圧入しました。このサイトを利用して、砂泥互層や砂礫層のような不均質性が著しい我が国特有の地質構造を反映した地質モデリングの技術開発に取り組んでいます。

長岡CO2圧入実証試験

下図は、長岡サイトの地質モデルです。左図は、3次元反射法弾性波探査データを基に、既存地質情報、坑井掘削(圧入井および観測井3本)による岩石コアサンプルや各種物理検層データの情報を加えて作成した2km×2kmの地質モデルです。赤い領域がCO2貯留に適した孔隙率の高い砂層です。右図は、このような空間的な分布を十分に把握した後、10km×10kmの広域地質モデルを確率論的な処理も行いながら作成しています。RITEでは定期的な物理検層を行い、これらの結果や岩石コアサンプルの詳細分析などを行い、地質モデルの更新を行っています。

図:長岡サイトの2km×2km地質モデル(孔隙率分布)

図:長岡サイトの広域(10km×10km)地質モデル(浸透率分布)

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貯留層内のCO2挙動解析

地下深部の塩水性帯水層(貯留層)に圧入されたCO2は、貯留層内の地層水を押しのけながら広がっていきます。圧入されたCO2がどのように分布しているか確認し、またどのように変化していくかを予測することは、CO2地中貯留における安全性を評価するうえで重要です。RITEは、長岡CO2圧入実証試験サイトにおいて取得した各種データを総合的に分析することにより貯留のメカニズムを解析しています。また、圧入中の地層変形の監視や誘発地震に備えた微小振動観測などのモニタリングも安全性を確保するには必要となります。これらをまとめてCO2挙動解析と呼んでいます。

下図は、長期的なCO2トラップメカニズムを示したものです。構造トラップ、残留ガストラップ、溶解トラップ、鉱物固定の4つのメカニズムがあり、圧入後の経過時間とともに各メカニズムの寄与の度合いが変わっていきます。また漏出に対する安全性も構造、残留ガス、溶解、鉱物固定の順で高くなります。構造トラップはキャップロックなど地質構造によるトラップです。残留ガストラップは小さな孔隙では一度CO2が取り込まれたら毛管圧のために動くことができないというメカニズムです。溶解トラップは地層水にCO2が溶解することによってトラップされるというメカニズムです。鉱物固定は溶解したCO2が周りの鉱物と化学反応を起こし沈殿することでトラップされるメカニズムです。

図:CO2トラップメカニズム

図:圧入されたCO2挙動の概念図

長岡サイトでのCO2挙動解析

長岡サイトでは、CO2圧入終了後のCO2挙動を長期にわたり継続的に監視している世界でも貴重なサイトであり、今までに取得した観測データによって、これら4つのトラップメカニズムのうち、構造トラップと溶解トラップメカニズムを確認し、残留ガストラップと鉱物固定メカニズムの兆候をとらえています。

右図は、弾性波トモグラフィという手法で貯留層内のCO2の分布を弾性波速度の低下域として可視化したものです。岩石中の孔隙が、水(液体)からCO2(超臨界流体)に置換されることによって岩石中の弾性波速度は低下します。この図から圧入されたCO2はキャップロックの下に留まっていることが分かります。つまり構造トラップメカニズムが働いていることが分かります。

図:長岡サイトのCO2貯留状況

圧入終了5年9ヶ月後に行われた坑井間(OB-2とOB-3)弾性波トモグラフィ測定結果より、CO2が安全に貯留されていることを確認している。
※中越地震(2004)や中越沖地震(2007)の影響も受けていない。

図:長岡サイトのCO2飽和度

左図は、観測井においてCO2が到達前、到達後の貯留層岩石のCO2飽和度(孔隙の中のCO2の割合)を物理検層という手法で繰り返し測定した結果です。この結果を見ると4年を過ぎたあたりからほぼ一定の値になっています。測定ポイントは圧入点よりも深部であるため、時間経過に伴い大半のCO2が移動しますが、移動できずに留まっているCO2を測定していると考えられます。これは残留ガストラップメカニズムの兆候と言えます。

図:長岡サイトの比抵抗と経過時間(赤/CO2分布、青/CO2溶解水分布)

右図は、同じく物理検層で取得した結果です。ここでは比抵抗(電気の流れにくさ)を示しています。各深度での経時変化を示しています。赤い部分は比抵抗が増加した部分、青い部分は減少した部分です。この減少した部分はCO2が地層水に溶解した部分です。超臨界状態のCO2は電気を通しませんが、溶解したCO2は電気が流れやすくなります。超臨界CO2の周囲で溶解していることから、溶解トラップが働いていることがわかります。

最後は鉱物固定です。長岡サイトでは地層水を圧入前、圧入開始後2年5か月、8年2か月経過したときの3回採水し、分析しています。下図左をみると地層水中の全炭酸は増えていますが、Caイオンは減少しています。このことはCaイオンが溶解CO2と反応してCaCO3(カルサイト)となって沈殿したためではないかと考えらます。下図右はカルサイトの飽和指数です。飽和指数は飽和度によって沈殿するか溶解するかを示します。深度1118mでは小さいですが、飽和指数が沈殿を示しています。これは鉱物固定の兆候を示していると考えられます。

図:長岡サイトの鉱物固定状況

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X線CT画像解析によるCO2分布状況の可視化

X線CTを使用することにより、貯留層を形成する岩石試料の内部へCO2を圧入した場合のCO2の挙動およびCO2の地層水との置換状況などを非破壊で観測できます。地下のCO2は通常、超臨界状態にあるため、同じようにCO2が超臨界状態になる温度圧力条件下でCO2圧入実験を行います。
RITEでは、X線CTイメージデータの解析によって、孔隙率や流体飽和度と岩石物性との関係を定量化する技術の開発に取り組んでいます。これらの物性値は、弾性波探査データや比抵抗データなどのモニタリングデータの解釈に用いることができます。

図:X線CT外観

図:コア試科内のCO2分布状況の可視化画像

左図は、岩石コア試料内のCO2分布状況の可視化画像です。CO2を圧入することにより、CO2が水に置換し、孔隙中に入っていく様子が確認できます。圧入されたCO2は岩石中に一様に分布するのではなく、CO2濃度の高い部分と低い部分が岩石中に形成された状態でトラップされます。このようなトラップメカニズムを解析することにより、実際の貯留可能量の評価や挙動予測などに活用します。

CO2圧入時の地層の安定性モニタリング技術の開発

海外でのCO2地中貯留プロジェクト(In Salahプロジェクト)において、CO2圧入に伴い貯留層内の間隙水圧が上昇することにより、圧入井周辺の地表面が隆起していることが観測されました。地層の変形量が大きくなると安全性に影響を与える恐れがあります。
地中変位計の埋設により地層の変形を観測することは出来ますが、変位計の埋設深度を事前に決める必要があるほか、作業の点から多数の変位計を埋設できません。
RITEでは、深度方向に連続的に測定できる分布型光ファイバーを用いて圧入中の地層の変形を監視する技術開発を行っています。光ファイバーのコアに入射されたパルス状のレーザー光の散乱光を計測し解析することにより地層変形(ひずみ)を計測します。また、光ファイバーセンサーは温度、圧力も連続的に測定できるため、圧入後の貯留層からの漏出監視など幅広く監視システムとして使用できる可能性もあり、技術開発を進めています。

図:光ファイバー地層変形監視システム

常設型OBC長期現場観測試験

CO2地中貯留におけるモニタリングでは反射法弾性波探査が最も多く使用実績があります。
弾性波を発振し、反射波を受振することにより、地下構造や貯留層内のCO2分布状況が把握できます。
海底下の貯留の探査では、通常、ストリーマケーブルと呼ばれるセンサーを海面に浮かべて船で曳航しながら探査を行います。これに対して、常設型OBC(Ocean Bottom Cable)は海底にセンサーを常設します。常設型のセンサーのため、繰り返し測定の精度が良いという利点があります。また、ストリーマケーブルによる探査は、多連の受振センサーを曳航する関係から大型の船が必要になるとともに、海上での大きなスペースを必要とします。これに対し、常設型OBCを用いる探査では発振のための小型船で対応できます。
さらに、常設型OBCにより自然地震や微小振動をリアルタイムで測定することができるという利点もあります。

RITEは、2011年から2012年度に神奈川県平塚沖で常設型OBCの実海域試験を行い、反射法弾性波探査を実施するとともに、システムの長期安定性や耐久性などを検証しました。

なお、この常設型OBCシステムは、現在、北海道苫小牧市において、日本CCS㈱が行っているCCS実証プロジェクトのサイトへ設置されています。

図:常設型OBC観測試験

CO2圧入に伴う微小振動評価手法の開発

海外のCO2圧入サイトによる事例によれば、CO2圧入に伴う振動はマグニチュードM-3~1(体に感じない程度のイベント)であり、ごく微小な振動と想定されます。ただし、大規模なCO2圧入サイトでの観測事例はまだ少なく、我が国のような地震多発国では特に社会受容性獲得の観点から重要な研究であるため、RITEでは安全な圧入活動を行うための微小振動評価手法の開発を行っています。

具体的には、微小な地震を高精度に計測する手法の開発、自然地震と圧入による微小振動を区分する手法、微小振動の大きさ、様相により、CO2圧入を制御する手法の検討などを行っています。

RITEは、実CO2圧入サイトにおける微小振動を観測するため、米国ローレンス・バークレー国立研究所およびテキサス大学地質研究所の協力を得て、米国炭素隔離地域パートナーシップのCO2圧入サイト(ミシシッピー州クランフィールド油田)に微小振動計を地中に6台設置し、2011年12月から観測を行っています。得られたデータを解析することにより、微小振動とCO2圧入との関連性について検討しています。

図:米国Cranfieldサイトにおける微小振動観測

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貯留層外部へのCO2移行解析

RITEでは安全性評価の観点にたって、万が一、海域にCO2が漏出した時のことを想定した研究を行っています。海底から漏出したCO2は海水中に拡散します。どのように拡散するかは海水の流れや温度の影響を受けます。RITEでは海洋の状況を数値モデル化し、シミュレーションによって拡散を予測する研究を行っています。

図:CO2移行・拡散シミュレーションの概念図

図:海中でのCO2拡散シミュレーション

拡散したCO2が海洋生物などの海洋環境に与える影響を評価するために、RITEではどれくらいの濃度のCO2であれば、どのような海洋生物に影響があるかをまとめ、データベース化しています。毎年発表される最新の研究をもとにデータベースを毎年更新しています。

また、海域に漏出したCO2を検知する技術開発を行っています。海水に溶解したCO2について、それが自然現象の変動の範囲内にあるものか、あるいはCO2の漏出に起因するものであるか見極める手法の検討を行っています。
さらにCO2気泡の検出のためにサイドスキャンソナー(SSS)などの音響探査手法の適用性について検討を行っています。

図:SSSによる気泡検出の概要

図:SSSの漏出ガス検知感度の検討(ROVビデオ画像との比較による推定)

CO2が海洋環境に及ぼす影響について理解を深めるために、英国の研究機関とともにCO2を海底から人為的に漏出させるフィールド実験(英国QICSプロジェクト:Quantifying and Monitoring Potential Ecosystem Impacts of Geological Carbon Storage)を行っています。ここでは、RITEは大型底生生物の行動変化と、泥の中の微生物への影響などを調査しています。図:QICS実験で海底から漏出するCO2気泡

 

図:底泥の微生物への影響実験

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CCS実用化に向けた技術事例集の作成

1996年にノルウェーのSleipnerプロジェクトにおいて世界で最初のCO2帯水層貯留が開始された後、世界で多くのCO2地中貯留実証試験が開始され、2008年頃からそれらの知見がBPM(Best Practice Manual)などの形で集約されました。さらに汎用的な解説書やガイドラインなどが作成されています。
例えば、欧州では欧州委員会がCCS指令を作成し、加盟国に対してCCS実施に関する規則を示すとともに、EU加盟国が国内法を整備する上での参考資料として4種類のガイダンス・ドキュメントを作成しています。また、米国環境保護庁(EPA)はCO2貯留用坑井のガイダンスの作成を進め、米国エネルギー省(DOE)はRCSP(地域炭素隔離パートナーシップ)のCCS事業の知見を基にBPMの作成を進めています。このように、海外ではCCS事業の実証試験の経験・知見を整理し、本格的な地中および海底下地層へのCO2貯留の実施に向けた準備が進められています。

CCSに関する主な解説書・手引書

  機関 発刊している解説書・手引書など
米国 EPA CO2貯留のためのクラスⅣ坑井に関するガイダンス(全12冊)
DOE/NETL CO2貯留のベストプラクティスシリーズ(全6冊)
カナダ CSA CCS国際規格
欧州 EC CCS指令の加盟国向け手引書(全4冊)
日本 環境省 CO2海底下地中貯留申請書の作成手引き
METI 大規模実証試験のための報告書
国際機関 CSLF BPMの比較
WRI EU,IEA,EPAの各規制の比較
IEAGHG 他 ワイバーンプロジェクトのBPM
民間機関 DNV CCS事業の認証手続きに関する推奨指針書

CCS技術事例集作成の目的とイメージ

  内容
目的 1. 技術的に安全かつ経済的なCCS事業の実施
 ・経済性、安全性、法令遵守、合意形成の担保
 ・CCSの普及障壁の低減
技術事例集のイメージ 2. 日本の技術力の海外への発信・展開・普及の支援
 ・海外での事業展開、国際共同研究への参画
 ・国際標準化活動、国際機関との連携

CCS技術事例集の作成に向けた検討スキームを下図に示します。主な流れとしては、国内外の情報の収集・整理・分析を行い、国内事例である長岡実証試験事例を整理します。次にRITEの研究開発成果に基づきRITE版CCS技術事例集を作成し、最終的には国内の大規模実証試験の事例を踏まえた日本版CCS技術事例集を作成する計画です。

図:CCS技術事例集作成の検討スキーム

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