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基礎研究

コリネ型細菌の遺伝子発現制御機構

コリネ型細菌の遺伝子発現制御機構

1. 転写制御機構
1.1. 糖取り込み系遺伝子の転写因子
1.2. 糖代謝系遺伝子の転写因子
1.3. グローバルレギュレーター
1.4. シグマ因子
1.5. 酸素抑制条件における遺伝子発現プロファイリング
2. 転写後制御機構

1. 転写制御機構

 転写因子は遺伝子のプロモーター領域に結合して、RNAポリメラーゼによるmRNAの合成(転写)を活性化(転写活性化因子)、または、抑制(転写抑制因子)することにより、遺伝子の発現量を調節します。

 様々な種類の転写因子が、個別のDNA部位を認識し、個別の機構により活性調節を受けますが、制御モジュール(活性調節シグナル―転写因子―標的遺伝子)間の重複や相互作用により、複雑なネットワークが形成されています。転写因子は細胞内外の様々な環境シグナルのセンサーとして働き、その情報は遺伝子発現制御ネットワークを通して統合され、細胞の環境適応応答に反映されると考えられます。

 コリネ型細菌のゲノム上には、150個程度の転写因子がコードされていることが推定されており、近年、それらの機能解析が急速に進められています。当研究グループでは、主に糖代謝制御と酸素欠乏応答の観点から、物質代謝に関わる様々な遺伝子の転写因子を同定し、それらの機能を明らかにしてきました。

J. Biotechnol. 154: 114-125. 2011. (Review)
Future Microbiol. 5: 1475-1481. 2010. (Review)

1.1. 糖取り込み系遺伝子の転写因子

<糖取り込み利用系の解析>

 バイオプロセスによるバイオマス原料の有効利用のためには、これに含まれる様々な糖類を同時に効率よく資化できる宿主微生物が求められます。代謝工学的改変手法による糖利用能の向上のためには宿主微生物の各種糖取り込み利用系を同定し、その制御機構を理解することが重要となります。当研究グループでは、これまでに、コリネ型細菌における糖取り込み利用系の制御機構の解析を行い、C6糖のグルコース、フルクトース、スクロース及びβ-グルコシドの取り込み系であるPTS遺伝子とC5糖のアラビノースの取り込み系・代謝系遺伝子の転写因子を見出し、その機能・役割について明らかにしています。また、その他の様々な炭素源(有機酸やアルコールなど)の取り込み利用系との相互作用について解析を進めています。

J. Bacteriol. 196: 2242-2254. 2014.
Mol. Microbiol. 92: 356-368. 2014.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 97: 8139-8149. 2013.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 89: 1905-1916. 2011.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 91: 1375-1387. 2011.
Appl. Environ. Microbiol. 75: 3419-3429. 2009.
Appl. Environ. Microbiol. 75: 3461-3468. 2009.
Appl. Environ. Microbiol. 74: 5290-5296. 2008.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 76: 1347-1356. 2007.
Microbiology. 149: 1569-1580. 2003.
Biochem. Biophys. Res. Commun. 289: 1307-1313. 2001.

 当研究グループでは、バイオマス原料の利用効率向上のため、コリネ型細菌の糖利用能拡大を進めています。コリネ型細菌が元々有するグルコース、マンノース、フルクトース、スクロース利用能に加え、 β-グルコシドPTSの点変異によりセロビオース利用能を、他菌株由来遺伝子を遺伝子組換え技術を用いて導入することによりキシロース、アラビノース利用能を獲得させることに成功しました。それによりバイオマス主要炭素源であるグルコース、キシロース、アラビノース、セロビオース等の同時利用を達成しています。

Appl. Microbiol. Biotechnol. 89: 1905-1916. 2011.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 85: 105-115. 2009.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 81: 691-699. 2008.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 77: 1053-1062. 2008.
Appl. Environ. Microbiol. 72: 3418-3428. 2006.
Microbiology. 149: 1569-1580. 2003.

コリネ型細菌における糖取り込み利用系

<コリネ型細菌における糖取り込み利用系>

phosphoenolpyruvate : carbohydrate phosphotransferase system (PTS)による糖取り込み。

 バイオマス由来糖源のうち、グルコース、マンノース、フルクトース、スクロース、セロビオースは主にPTSにより菌体内に取り込まれます。PTSの特徴は、糖の取り込みがそのリン酸化と共役して行われることです。リン酸基は解糖系のホスホエノールピルビン酸に由来し、細胞質タンパク質のEI、HPrを経由し、EIIに受け渡されます。EIIは膜タンパク質で、グルコース、フルクトース、スクロース、及びβ-グルコシドに特異的なEIIが存在し糖の輸送とリン酸化を同時に行います。リン酸化されることにより糖は解糖系等の代謝経路に速やかに受け渡されます。またPTSはリン酸化状態に応じて様々な細胞機能の制御に関わります。

<PTS遺伝子の転写因子>

 代謝工学的改変手法による糖利用能向上のためにはバイオマス由来糖の取り込みを行うPTSの発現制御機構を理解することが重要となります。当研究グループ等の解析からPTSの発現制御には様々な転写因子が関与していることが判りました。PTS遺伝子の発現はPTS糖の存在により誘導されますが、これはPTS糖の代謝により生成された糖-リン酸がSugRの転写抑制作用を阻害することによるものと示されています。様々な転写因子が働くことにより、 PTS遺伝子の発現は多様な環境に対応することが可能となっています。

J. Bacteriol. 196: 3249-3258. 2014.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 89: 1905-1916. 2011.
J. Bacteriol. 193: 349-357. 2011.
Microbiology. 155: 3652-3660. 2009.
Microbiology. 154: 264-274. 2008.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 78: 309-318. 2008.
Microbiology. 149: 1569-1580. 2003.
Biochem. Biophys. Res. Commun. 289: 1307-1313. 2001.

phosphoenolpyruvate : carbohydrate phosphotransferase system (PTS)

<phosphoenolpyruvate : carbohydrate phosphotransferase system (PTS)>

コリネ型細菌におけるPTS遺伝子の転写制御系

<コリネ型細菌におけるPTS遺伝子の転写制御系>

1.2. 糖代謝系遺伝子の転写因子

 代謝工学的改変手法による糖代謝能強化の基盤として、関連遺伝子の発現制御機構を理解することは重要です。当研究グループでは、これまで、中央代謝系遺伝子の発現変化に着目し、酸素抑制条件下における細胞内酸化還元バランスの調節を担うNADH/NAD+依存的酸化還元反応を触媒する解糖系/乳酸生成酵素の遺伝子、およびNADPH生成の主要経路であるとともに非可食バイオマス由来C5糖利用に重要なペントースリン酸経路遺伝子の転写因子の機能・役割について明らかにしています。

J. Bacteriol. 196: 3249-3258. 2014.
J. Bacteriol. 191: 968-977. 2009.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 83: 315-327. 2009.
J. Bacteriol. 191:4251-4258. 2009.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 81: 291-301. 2008.
Microbiology. 154: 3073-3083. 2008.
J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 15: 264-276. 2008.
Microbiology. 153: 2190-2202. 2007.

コリネ型細菌における解糖系、乳酸生成酵素およびペントースリン酸経路遺伝子の転写制御系

<コリネ型細菌における解糖系、乳酸生成酵素およびペントースリン酸経路遺伝子の転写制御系>

1.3. グローバルレギュレーター

 グローバルレギュレーターとは転写因子の一つであり、多数の遺伝子群、それも多様な生体反応に関与する遺伝子群を制御しているものを指します。そのため、グローバルレギュレーターの遺伝子破壊もしくは高発現、活性変化は多様な遺伝子の発現変化をもたらし、同時に表現型にも大きな影響を与えます。

 コリネ型細菌において糖代謝関連遺伝子の発現制御に関わる複数の転写因子が、嫌気代謝や細胞複製など幅広い細胞機能に関与するグローバルレギュレーターとして働くことが解ってきました。当研究グループでは、これらのグローバルレギュレーターを含めた様々な転写因子の生理学的役割を明らかにするため、トランスクリプトーム解析やChIP-chip解析といったゲノムワイドな解析により、各転写因子の全標的遺伝子の同定を進めています。転写因子とその標的遺伝子から成る制御モジュールによって構築される転写制御ネットワークは、細胞における様々な代謝系のシステマティックな制御の鍵となります。このゲノムワイドな制御機構の理解を深め、多様な炭素源の利用や生産プロセスの最適化に役立てていきます。

J. Bacteriol. 195: 1718-1726. 2013.
J. Bacteriol. 193: 4123-4133. 2011.
Microbiology. 157: 21-28. 2011.
J. Bacteriol. 191: 968-977. 2009.
J. Bacteriol. 190: 8204-8214. 2008.

ChIP-chip解析

<ChIP-chip解析>

転写因子間の発現制御機構

<転写因子間の発現制御機構>

1.4. シグマ因子

 シグマ(σ)因子はαββ'ωサブユニットから成るコア酵素と共にRNAポリメラーゼのホロ酵素を形成します。シグマ因子はRNAポリメラーゼのプロモーターの認識、結合の役割を担っており、コア酵素が遺伝子を鋳型に転写を行います。バクテリアは複数のシグマ因子を有しており、それぞれ配列の異なるプロモーターへ結合し、そこから下流の転写を促進します。バクテリアはシグマ因子を切り替えることで転写する遺伝子を切り替え環境変化に適応しています。

 コリネ型細菌のゲノム上には7つのシグマ因子がコードされています。ハウスキーピング遺伝子の転写を行い生育に必須である主要シグマ因子SigA、SigAと高い相同性を持ちながらも生育には必須ではないグループ2シグマ因子SigB、環境ストレス応答に関わるextracytoplasmic function (ECF)シグマ因子ファミリーに属するSigC, D, E, H, Mです。

 各シグマ因子について認識プロモーター配列およびそのプロモーター支配下にある遺伝子(レギュロン)を同定することで、各シグマ因子がどのような細胞内外の環境変化への適応に重要か明らかにします。得られた知見をもとに細胞のストレス応答機構の解明や有用プロモーターの開発を進めていきます。

Appl. Microbiol. Biotechnol. 97: 4917-4926. 2013.
J. Bacteriol. 191: 2964-2972. 2009.
Appl. Environ. Microbiol. 74: 5146-5152. 2008.

シグマ因子の切り替えによるRNAポリメラーゼの標的遺伝子の切り替え

<シグマ因子の切り替えによるRNAポリメラーゼの標的遺伝子の切り替え>

1.5. 酸素抑制条件における遺伝子発現プロファイリング

 当研究グループでは、コリネ型細菌の酸素抑制条件における有機酸生成能を基盤とした高効率バイオプロセスの開発を進めています。トランスクリプトーム解析により、酸素抑制条件では好気条件と比較して、全3080遺伝子の内、161個の遺伝子の発現量が増加し、221個の遺伝子の発現量が減少することを報告しています。この遺伝子プロファイルを代謝工学的改変手法の基盤として有効に活用するため、これらの遺伝子の転写因子の機能解析を進めており、本条件における様々な環境シグナル応答システムの複雑なクロストークが示唆されています。

FEBS J. 280: 3298-3312. 2013.
FEBS J. 279: 4385-4397. 2012.
Biosci. Biotechnol. Biochem. 76: 1952-1958. 2012.
Microbiology. 158: 975-982. 2012.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 90: 1051-1061. 2011.
Appl. Environ. Microbiol. 76: 5488-5495. 2010.
Microbiology. 156: 1335-1341. 2010.
J. Biol. Chem. 284: 16736-16742. 2009.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 83: 315-327. 2009.
J. Bacteriol. 191: 4251-4258. 2009.
Appl. Environ. Microbiol. 74: 5146-5152. 2008.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 81: 505-513. 2008.
Microbiology. 153:2491-2504. 2007.

酸素抑制条件において発現の変化する遺伝子群の多様な生理機能と転写制御系

<酸素抑制条件において発現の変化する遺伝子群の多様な生理機能と転写制御系>

<嫌気硝酸呼吸>

 当研究グループでは、長年好気性菌であると認識されていたコリネ型細菌が、嫌気条件において酸素の代わりに硝酸を電子受容体として生育することを報告しています。この硝酸呼吸に関与するnarオペロンの発現制御機構の解析により、新規転写因子ArnRによる一酸化窒素(NO)応答やグローバルレギュレーターGlxRの関与を明らかにしています。また、トランスクリプトーム解析により、嫌気硝酸呼吸条件ではDNA損傷に対するヌクレオチド除去・組換え修復、細胞分裂抑制、SOS応答の発現制御に関与する"SOS 応答"遺伝子群の発現が誘導されることを報告しています。さらに、細胞内NADH/NAD+比の調節に関わる様々な酵素遺伝子の発現量が酸素濃度に応じて変化することに着目し、それらの遺伝子の転写因子の機能・役割の解析を進めています。

J. Bacteriol. 196: 60-69. 2014.
J. Bacteriol. 193: 1327-1333. 2011.
Microbiology. 157: 21-28. 2011.
J. Bacteriol. 190: 3264-3273. 2008.
Mol. Microbiol. 67: 597-608. 2008.
Appl. Microbiol. Biotechnol. 75: 889-897. 2007.

コリネ型細菌における好気呼吸系から嫌気発酵系/嫌気硝酸呼吸系へのシフト

<コリネ型細菌における好気呼吸系から嫌気発酵系/嫌気硝酸呼吸系へのシフト>

コリネ型細菌における嫌気硝酸呼吸系遺伝子の転写制御系

<コリネ型細菌における嫌気硝酸呼吸系遺伝子の転写制御系>

2. 転写後制御機構

 細胞の代謝能力は代謝を担う酵素の活性と濃度により決まります。細胞内の酵素量はゲノムからの発現と分解のバランスにより決まるので、より効率的な代謝能を付与するためには、遺伝子発現と蛋白質分解の制御機構について理解を深めることが重要です。ゲノムにコードされている遺伝子はmRNAへと転写されたのち、蛋白質へと翻訳され発現されます。遺伝子の発現は、転写因子による転写開始段階での発現制御に加え、mRNAへと転写された後でも様々な制御を受けることが知られています。当研究グループでは、遺伝子の転写後制御機構について解析を進めています。

Appl. Microbiol. Biotechnol. 98: 4159-4168. 2014.

バクテリアにおけるRNAレベルの遺伝子発現制御

<バクテリアにおけるRNAレベルの遺伝子発現制御>

<β-グルコシドPTSの発現制御>

 β-グルコシドPTSは他のPTS遺伝子とは異なり、転写伸長段階で発現制御されています。β-グルコシドPTSをコードするbgl遺伝子は遺伝子上流に転写終結配列(ターミネーター)が存在するため遺伝子内部まで転写が伸長しません。しかしアンチターミネータータンパク質のBglGがbgl mRNAと結合すると転写終結構造の形成を阻害し、bgl遺伝子は発現されます。BglGのRNA結合活性はPTSによるリン酸化によって制御されており、β-グルコシド糖が存在する条件にのみbgl遺伝子が発現するようなメカニズムが提唱されています。

J. Bacteriol. 193: 349-57. 2011.
Microbiology. 155: 3652-60. 2009.

β-グルコシドPTS遺伝子のアンチターミネーターによる転写伸長制御

<β-グルコシドPTS遺伝子のアンチターミネーターによる転写伸長制御>

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